
【連載】Windows 11パソコンへの大量移行を効率化する方法は?|第5回
アップグレード後に利用する機能や導入するソフトウェアが固まり、ハードウェア買い換えかOS更新かの方針が決まったら、Windows 11へ移行する手順の効率化について検討しましょう。第1回のブログで、アップグレード前に既存のパソコンに保存しているデータをバックアップする必要があることと、便利なサービスを利用する選択肢があることを紹介しました。
Windows 11にアップグレードしたパソコンを業務で使える状態にするには、アプリや周辺機器ドライバーなどソフトウェアのインストールや各種の設定までを完了させるキッティングと呼ばれる作業が必要です。Windows 11パソコンへの買い換えではOSをアップグレードする必要がないので、その分だけ移行作業は少なくなります。ですが、その場合でもソフトウェアのインストールや設定の作業を効率化することを考えなければいけません。
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手出しでのキッティングは台数が増えると大変
キッティング作業を効率化する手法をお伝えする前に、すべてを手作業で実施した場合の工程をお伝えしましょう。①パソコンのパッケージを開梱して、OSをインストールし、LANやWi-Fiなどの社内ネットワークに接続します。続いて、②パソコンを利用するのに必要なユーザーアカウントを設定し社内ドメインへ参加できるように設定します。適切な設定をすることで、同じドメインに参加しているユーザー同士がファイルやフォルダなどのデータを簡単に共有できるようになります。
ネットワーク設定が完了したら、③周辺機器のドライバーをインストールし、複合機やプリンター、スキャナーなどを使えるようにします。次に、④業務で使うアプリケーションソフト(販売管理、人事など)のインストールや設定を実行し、日常の業務ができる環境にします。
アプリケーションソフトのインストールがすべて終わったら、⑥セキュリティ対策を整えます。Windows Updateを実施してOSを最新状態にするほか、ウイルス対策ソフトウェアのアップデートや、インストールした各種ソフトウェアの脆弱性を修正するセキュリティパッチなどのプログラムをインストールします。最後は、⑦資産管理番号を記載したラベルシールをパソコンに貼り付けて管理台帳に記録します。
これらの一連の作業を手作業で実施すると、1台につき2~3時間ほどかかるのが一般的です。数台程度なら手作業でも対応可能ですが、数十台を超える分量となると作業時間が膨大になるだけでなく、設定ミスが発生する可能性も高まります。そのため、こうしたキッティングの作業を効率化する手法を検討したほうがいいでしょう。
Autopilot でひな型をクラウドから自動展開
パソコン台数が多い場合のキッティング作業を効率化するには、業務に使える状態にセットアップを終えたパソコンを用意し、それをひな型(マスター)として他のパソコンにコピーするのが効果的です。
マスターをコピーする手法は主に2つあります。1つはマイクロソフトの「Windows Autopilot(以下Autopilot)」サービスを使い、クラウド上に保存したマスターの環境を社員個々のパソコンとしてセットアップする手法です。もう1つはマスターの環境をイメージデータという形式のファイルに変換し、そのファイルを使って複数のパソコンに一斉展開する手法です。どちらもマスターからクライアントを複製する手法ですので、まとめて「クローニング」と呼びます。
まず、Autopilotを利用した場合の流れから説明しましょう。Autopilotは、Microsoft 365 Enterprise E3/E5 サブスクリプションなど、必要なライセンスを所有している企業ユーザーなら利用できます。作業手順は以下の通りです。
①マスターとするパソコンを「デバイス登録」するためのID(ハードウェア ハッシュ)をシステム担当者が取得し、端末を管理するクラウドサービス「Microsoft Intune(以下Intune)」に登録します。これにより、マスターがAutopilotに登録されます。
②Intuneでマスターのセットアップ情報を反映した「プロファイル」を作成し、そのプロファイルを適用するクライアントをまとめたチーム単位で「デバイスグループ」を構成します。チームごとに適用するポリシーやアプリケーションなどを整理して、複数のプロファイルを作成し、Intuneの管理画面でグループ化します。
③クライアントのパソコンを起動してネットワークに接続すると、Autopilotによるプロファイルのインポートが始まり、セットアップが自動的に完了します。
各パソコンのセットアップ情報を事前に登録しておけば、社員がパソコンを起動した段階で自動的に反映されるのでシステム管理者の手間が大幅に削減できます。管理者は各パソコンに触れずに作業でき、個々のパソコンの設置場所に移動する必要もありません。また、セキュリティ対策は起動ごとにクラウド経由で更新するので、パソコンごとに管理する手間からも解放されます。
Windows ADK などを使うイメージファイルの展開も可能
続いて、もう一つのマスターのイメージデータをファイルとして展開する手法の流れを説明します。まず、OSも含めたイメージファイルを展開する場合は、OSのボリュームライセンスを購入する必要があります。作業手順は以下の通りです。
①マスターとするパソコンにWindows 11をクリーンインストールしてから、Microsoftが公式サイトで無償提供している「Windows ADK(Assessment and Deployment Kit)」など、イメージファイルを作成・展開するためのソフトをインストールします。
②Windows ADKに含まれるWindowsシステムイメージマネージャー(Windows SIM)を使って、イメージファイルの作成・展開に使用する軽量なOS「Windows PE(Preinstallation Environment)」の起動ファイルをUSBメモリーなどに保存します 。
③Windows 11の初期設定を自動化する「応答ファイル」を、Windows SIMで作成します。この応答ファイルには、Windows 11の初回起動時に表示されて通常は手動で入力している設定内容が含まれており、クライアントの自動セットアップに要する時間を削減できます。
④マスターのWindows 11を監査モードで起動し、各種ドライバーとアプリケーションソフトをインストールします。その後は監査モードを終了し、再起動後に初期設定を実行します。
⑤Windows 11に含まれるシステム準備ツールの「Sysprep」を使って、クライアントにイメージファイルを展開できるようにデータを一般化します。具体的には、各パソコン固有でネットワーク上に複数存在するとトラブルが発生するセキュリティ識別子(SID)などの情報を削除し、応答ファイルを使って無人セットアップができる状態にします。
⑥マスター用パソコンを、②の手順でUSBメモリーなどに保存したWindows PEを使って起動して、マスター環境のイメージファイルを作成します。続いて、Windows PEからネットワークや外部ストレージを介して、クライアントにイメージファイルを展開します。その後に展開済みのクライアントを起動すると、マスターの環境が反映されます。
この手法もAutopilot利用時と同様に、管理者は各パソコンを個々に設定する必要がないので、大量のパソコンをキッティングする手間を大幅に削減できます。ただし、イメージ展開後に設定やセキュリティ対策などを更新したり、部署ごとに複数のマスター環境を展開したりするための管理は別途必要になります。
IT 人材不足に悩む企業はパソコン管理代行の利用で解決
Windows 11への移行作業で今回紹介した対策が必要となる背景として、情報システム部の業務が増大しているにも関わらず、慢性的なIT人材不足に悩む企業が多い問題があります。本来は、社内の業務効率化につながるDX(デジタルトランスフォーメーション)や損害発生を防止するセキュリティ対策などの「コア業務」に部内リソースを分配したいというのが情報システム部の本音でしょう。しかし実際には、パソコン管理や社内問い合わせ対応、システム障害など日々の「ノンコア業務」に追われて、OSアップグレードに対応する余裕がない企業も少なくないようです。
こうした企業の悩みを解決するため、当社はパソコン管理代行サービス「ピタッとキャパシティ for PC」を提供しています。当サービスでは、パソコンの導入から運用管理、修理交換などを代行し、今回のコラムで紹介したクローニングの代行や想定外のトラブルにも対応します。サービス内容の詳細は次回のブログで紹介します。
記載の企業名、製品名は各社の商標または登録商標です。ブログ記事は掲載時点(2024年12月)における情報をもとに執筆しており、著者の意見や経験に基づく内容を含んでいます。掲載している情報の正確性について万全を期しておりますが、その内容について保証するものではありません。
▶第5回 | Windows 11パソコンへの大量移行を効率化する方法は? 第6回 | PC全体の管理もアウトソースさせませんか
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