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【連載】AI機能フル活用に向け、Windows 11のハードウェアの強化が進展|第4回

 Windows 11の目玉であるAIアシスタント「Copilot in Windows」で利用できる新機能の数々をブログの第3回で紹介しました。それらを快適に利用できるハードウェアの強化が並行して進んでいます。2023年には、IntelとMicrosoftが中心となってパソコン業界を巻き込み、AI機能の処理能力に優れる「AI PC」を提唱しました。このAI PCの最大の特徴は、AIの推論処理に特化したNPU(Neural Processing Unit)を内蔵するプロセッサーを搭載したことです。NPU内蔵プロセッサーはIntel、Qualcomm、AMDが提供しています。
 
 2024年になると、MicrosoftはCopilot in Windowsに高機能を追加するとともに、その稼働に必要な高性能NPU(演算処理速度が40TOPS以上)を搭載する「Copilot+ PC」を展開しました。6月にはQualcommのNPU内蔵プロセッサーを搭載した対応パソコン、8月にはAMD製NPU、そして10月には最大手のIntel製NPUの搭載製品が続き、主要NPUベンダーの対応製品が出揃いました。今回はNPUの仕組みやメリット、AI PCやCopilot+ PCのハードウェア構成について詳しくお伝えします。


目次[非表示]

  1. 1.NPUでAI機能を高速処理、省電力化も実現
  2. 2.Copilot+ PCの展開とともにNPU高速化が進展
  3. 3.Copilot in Windowsの対応でNPU効果を実感


NPUでAI機能を高速処理、省電力化も実現

 Copilot in Windowsなど生成AIの演算処理は、基本的にはクラウド側で行なわれるデータの「学習」(ラーニング)処理と、その学習を基に新たな情報を生成する「推論」処理に大きく分かれます。従来は後者の推論もクラウドで処理するのが一般的でしたが、NPUの搭載でAI処理能力を向上させたことで、パソコン側で処理するアプリが増えてきました。

 従来のパソコンでは、主にCPUとGPUで演算処理をしていました。CPUはスレッド(処理の単位)を単独で処理する能力に長けており、OSや多くのアプリケーションがスムーズに動作します。一方、GPUは大量のデータを並列処理する能力に優れるため、当初は大量のグラフィックスデータを扱うゲームやビデオ関連のアプリで使われていました。近年はAIの学習処理にも活用されています。対して、NPUはニューラルネットワークの推論処理を低消費電力で実行できるように最適化されており、パソコンがAI処理を実行する際のバッテリー駆動時間を長くできる特徴があります。

 こうした役割の違いがあるため、NPUはCPUやGPUと一体化したプロセッサーとして提供されています。NPUを内蔵した主なプロセッサーは、Intel製の「Core Ultra」(開発コード名:Lunar Lake)、Qualcomm製の「Snapdragon X」、AMD製の「Ryzen AI 300」があります。例えばIntelのプロセッサーでは、AI推論処理にNPUだけを使うとCPUだけで実行する場合と比べて半分以下の時間で終わり、同一の処理量で比較すると消費電力を低くできるとされています。

 ただし、こうしたNPUのメリットを発揮するには、アプリ側でAI推論処理をクラウドやCPUではなく、NPUを使う設計にしなくてはいけません。詳細は後述しますが、Copilot in Windowsの対応やCopilot+ PCの登場によって、NPUの効果を発揮するための環境は整ってきています。


Copilot+ PCの展開とともにNPU高速化が進展

 NPUの仕組みに加え、「AI PC」と「Copilot+ PC」の違いについて詳しく説明しましょう。まず、AI PCを提唱するにあたり、①NPUの搭載に加えて、②AI処理をクラウド側でなくパソコン側で実行する、③キーボードにAI機能を簡単に起動できる「Copilotキー」を備える――といった条件付けをしました。②の条件には、AI処理の高速化に加えて、処理データをクラウド環境に出さないことでセキュリティリスクを低減する狙いもあります。

 これに対して、Copilot+ PCではMicrosoftがハードウェアの定義をより明確にしました。具体的にはAI PCの条件に加えて、①NPUの演算処理速度を40TOPS以上、②メモリーは16GB以上のDDR5/LPDDR5、③ストレージは256GB以上のSSD/UFS(Universal Flash Storage)、④バッテリーは1日中使用できる駆動時間――などの条件を規定しています。

 こうした違いがあるため、従来のAI PCをそのままCopilot+ PCに移行させることはできません。初期のAI PCが搭載したIntel製プロセッサーのCore UltraはNPUが11TOPS、AMDのRyzen 8040は同16TOPSと、Copilot+ PCのハードウェア要件を満たさないからです。これに対して、Copilot+ PCの第1弾(2024年6月に発売)において搭載されたQualcommのSnapdragon Xは同45TOPSと大幅に高速化しています。続く8月発売のCopilot+ PCに搭載されたAMDのRyzen AI 300は50TOPSになり、10月発売製品に搭載されたIntelのCore Ultra 200Vは48TOPSになりました。このように各社のプロセッサーのNPU処理能力はほぼ横並びの状況です。

 なお、ARM系のアーキテクチャーを採用しているSnapdragon Xでは、IntelやAMDのプロセッサー向けに開発した従来のx64(x86)版のWindowsは動作しません。このため、Snapdragon Xの搭載製品ではARM版のWindows 11を搭載しています。結果として、広く普及しているx64(x86)対応のアプリケーションソフトを動かすにはエミュレーション機能が必要になり、その分だけパフォーマンスが低下するのが一般的です。




Copilot in Windowsの対応でNPU効果を実感

 AI PCしかなかった頃は、NPUを有効に活かせるアプリが少ないという声もありました。しかし、Microsoftが公開した大型アップデート(24H2)に対応するWindows 11搭載のCopilot+ PCが10月に登場したことで、Copilot in Windowsに追加されたAI新機能がキラーアプリとして注目を集めています。

 ブログの第3回では、新しいNPU対応アプリとして、「ペイント」や「フォト」に追加された高度な画像加工機能などを紹介しました。加えて、Web会議や翻訳など、コミュニケーションに関する高度な機能も追加されています。

 Copilot+ PCでは、「Windows Studio エフェクト」でWeb会議中に画面上の情報を見ているときでもカメラ目線を維持する「テレプロンプター」と、画面の背景で人が動くと弱いぼかしを入れる「人物背景用ぼかし」を利用できます。また、動画再生時などにPCから出力される音声を自動翻訳して画面上に表示できる「ライブキャプション」機能では、Copilot+ PCならば高速な翻訳と表示が可能になります。

 当社では、Copilot+ PC対応製品として、HP製の「EliteBook 830 G11」を推奨しています。これまでに紹介したCopilot+ PCとしての機能  に加えて、「HP Smart Sense」機能では、AIを使用してユーザーのパソコン使用パターンを学習し、CPU温度や消費電力、ファンノイズを抑制させることで、バッテリー持続時間が向上しています。なお、Copilot+ PC対応アプリはメモリー消費量が多くなりますので、16GBよりは32GBのメモリー搭載をお薦めします。




記載の企業名、製品名は各社の商標または登録商標です。ブログ記事は掲載時点(2024年12月)における情報をもとに執筆しており、著者の意見や経験に基づく内容を含んでいます。掲載している情報の正確性について万全を期しておりますが、その内容について保証するものではありません。


第4回 | AI機能フル活用に向け、Windows 11のハードウェアの強化が進展
 第5回 | Windows11買替えでも移行は大変、効率化する技は?  
 第6回 | PC全体の管理もアウトソースさせませんか
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