本プロジェクトにおける難題は大きく2つ。①学校単位で運用されてきた「校務系」の Active Directoryサーバーとファイルサーバーをクラウド上に統合すること、②インターネットに接続する「校務外部接続系」で安全に個人情報を扱えるようにすることである。ネットワンシステムズの清水健太氏は次のように話す。
「スケジュール遵守を前提に、安全かつ確実に、決められた予算内でプロジェクト方針を具現化するために、クラウドサービスやテクノロジーを慎重に検討し、最適なコンポーネントを組み合せて次世代愛知エースネットのアーキテクチャを作り上げていきました。結果として、Microsoft 365とMicrosoft Azureに多くの機能を寄せることで投資対効果の高いシステムを整備することができました」
次世代愛知エースネットを構成するキーコンポーネントと、それぞれの主な役割は次の通りだ。
■ Entra ID(旧 Azure AD):
データセンターおよびAzure上に180校の ADサーバーを集約し、Entra IDと連携することで愛知県教育委員会より各校へ統合ID管理と認証サービスを提供するモデルへ移行
リスクベース認証を利用した、特に海外からの不正アクセス対策
■ Azure Files:
Azure上に180校の「校務系」ファイルサーバーを統合
■ Azure Virtual Desktop(AVD):
1台の端末から、インターネットアクセスやクラウドアプリケーションの利用と、クラウドサービスVDI によるセキュアな「校務系」の同時利用を可能に
職員室に限定せず校内のどこでも「校務」を遂行でき、インターネットアクセスやメール送受信は外出先・出張先など場所を問わず可能に
■ Microsoft 365 A5:
現行の A3からA5へアップグレードし、「校務外部接続系」にリスクベース認証、ふるまい検知、マルウェア対策、情報漏洩対策、シングルサインオンなどを実装
Microsoft Defender for Endpoint Plan 2を利用した、端末の自動修復
利便性の高いオフィスアプリケーション、オンライン会議(Teams)、自動化ツール(Power Automate)など各種クラウドサービスの活用
Microsoft Purview Information Protection(旧 Azure Information Protection)を利用し、「校務系」の機密情報を「校務外部接続系」へ持ち出す際に「ラベル付け」を行い保護
自動ラベル付けポリシーによる機微情報の自動暗号化を可能にし、安全を確保しつつ、教職員の負荷を軽減
180校のオンプレミスファイルサーバーから「校務データ」をAzure上に移行する作業は、特に慎重に進められた。ここで中心的な役割を果たしたATSの梶田知宏氏は次のように話す。
「各校がそれぞれのやり方で管理してきた膨大な量の校務データを、期限内に確実にAzure Filesへ移行しなければなりませんでした。私たちは、学校側が戸惑わないようフォルダ構造を工夫しながら、Azure Files上に180校分の格納エリアを準備しました。スケジュールに余裕をもってデータの棚卸から着手し、ATSが開発したデータ移行ツールを使用して作業を進めていただきました」
「ATS側で検証環境を用意し、移行ツールを使うシンプルなデータ移行手順を見極めていきました。この工程で可能な限りエラーを潰していったことが、大きなトラブルなく大規模な校務データの移行を完遂できたポイントだったと思います」とATS側でエンジニアチームをリードした内山創一朗氏は続けた。
次世代愛知エースネットでは「校務系」と「校務外部接続系」が1台の端末に統合され、さらに「校務外部接続系」で安全に個人情報を扱うための工夫も施された。夏目氏は、「1台の端末で、インターネットアクセスやメール送受信と、Azure Virtual Desktop(AVD)によるセキュアな「校務系」の同時利用が可能になりました。さらに、Microsoft Purview Information Protection(MPIP:旧 Azure Information Protection)により、ファイルの機密度に応じて『ラベル付け』を行い、許可されたユーザーだけが閲覧できる仕組みを整えたことで、校務外部接続系でも重要度の高い情報を安全に扱えるようになりました」と話す。
「校内はロケーションフリーで校務の遂行が可能になり、教職員は職員室と教室などを行き来する必要がなくなりました。こうした隙間時間を有効活用することで、愛知県全体では年間7万時間程度の業務効率化が可能と試算しています」と酒井氏は続けた。次世代愛知エースネットは、将来のクラウド&ゼロトラストへの完全移行を視野に入れた基盤整備としても位置づけられる。MPIPの適用はその 第一歩と言えるだろう。
「『ゼロトラストを指向し、全面的に校務外部接続系に移行する』『成績管理を校務系に残して、それ以外は校務外部接続系を利用する』というように、学校の実情に応じて柔軟に運用モデルを選択できることも大きな特徴です」(夏目氏)
最新化された愛知エースネットは、計画通り2025年1月に全180校、15,000名の教職員による利用が開始された。夏目氏はプロジェクトを振り返り次のように結んだ。
「ネットワンシステムズには、難しいプロジェクトを進める中で様々な課題解決に実力を発揮してもらえました。Microsoft製品、特にA5やAzureの高度なテクノロジーに精通したATSには、クラウドVDIのスケーリングの工夫による繁忙期・閑散期の利用実態にあわせたリソース最適化や、MPIPなどA5機能の活用でセキュリティを強化するなど、その高い技術力に感心させられました。複数のサービスが連携するMicrosoftのソリューション群を利用し、私たちが描いた『ハイブリッドモデル』を具現化してくれた両社に感謝します。これから5年、システム導入の成否を決める運用段階でも、それぞれの高い能力を発揮してもらえることを期待しています」